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研究概要

ラジカル、リビングラジカル重合、ヘテロ元素化合物、有機金属化合物、含曲面芳香族化合物、機能材料をキーワードとして、有機合成と高分子合成において「輝く分子」の創出を目指しています。特に、これまで有機合成化学の対象になりにくいと共に、構造を制御して合成することが困難であった分子量の大きな分子を精密に合成することを大きなターゲットとしています。核酸やたんぱく質の例を引くまでもなく、決まった大きさと形を持つマクロ分子は優れた機能の発現が期待されます。合成高分子を用いたボトムアップ方式による高機能性ナノマテリアルの創製を視野に入れた研究をも行っています。

以下に、具体例を示します。いずれもオリジナルな分子、反応を基盤とした基礎研究が原点です。しかし、それだけにはとどまらず、我々の開発した化合物を鍵とした材料が、実際に社会で利用されることを視野に入れた展開を行っています。

ラジカル反応・ラジカル重合の制御

ラジカルはアニオン、カチオンと並び、有機合成において重要な炭素活性種です。しかし、その反応性を制御する方法は極めて限られていました。我々は、炭素ラジカル前駆体であるヘテロ元素化合物に着目することで、新しい形式のラジカル反応の開発や、ラジカル重合反応の高度な制御を達成しました。例えば、以下に示した有機テルル、アンチモン、ビスマス重合制御剤(連鎖移動剤)を用いることでリビングラジカル重合が進行し、生成する重合体の分子量と分子量分布が高度に制御できました。さらに、これらのヘテロ元素化合物の高い反応性を活かして、ブロック共重合体や末端変換重合体を選択的に合成することで、個々の高分子鎖の構造を高度に制御できることも明らかにしています。これらの制御剤はすべて新規化合物であり、我々の研究室の自慢の分子です。また、最近は共同研究を通じて、この重合法が様々な機能性高分子材料の創製に有用であることも明らかになってきています。より詳しい内容は、最近のレビューを参照ください。 (http://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/cr9001269)


これらの重合反応において、ヘテロ元素種の選択は極めて重要です。すなわち、リビングラジカル重合では、ドーマント種と呼ばれるラジカル前駆体からラジカルが可逆的に生成することで、重合末端が“生きたままで”重合することが可能になっています。我々の開発した重合系では、交換連鎖反応といわれる機構により、この平衡が成り立っています。テルル、アンチモン、ビスマスが、この交換反応を極めて効率的に起こすことが重合制御の鍵となっています。さらに、最近ではジテルリド、ジスチビン、チオビスムチンといった、ヘテロ元素どうしがσ結合を持つ化合物がリビングラジカル重合の制御を向上させる助制御剤として有効であることも明らかにしました。ラジカル反応を制御する新しい方法であり、その機構解明も含めて現在詳細な検討を行っています。

環状π共役分子の合成


図1 シクロパラフェニレンとカーボンナノチューブの構造

シクロパラフェニレンはベンゼン環が環状につながったπ共役分子です。この構造は、カーボンナノチューブの最小構成単位に相当する分子でもあることから、基礎化学のみならず材料科学などの応用分野からも多大な興味を集めている分子です(図1)。しかし、シンプルな構造にもかかわらず歪んだ環状構造を形成することが難しいため、近年までその有効な合成法がありませんでした。

我々は、白金原子を各頂点に持つ四角形構造の四核白金錯体を前駆体として用いる、シクロパラフェニレンの新しい合成法を開発しました。[8]シクロパラフェニレンの合成例を以下に示します(図2)。また、合成したシクロパラフェニレン類が強い蛍光を発することも明らかにしました。この合成法は自由度が高いため、図3のような3次元かご状分子や[4]シクロピレニレンなど多種多様な誘導体の合成にも応用可能であることがわかっており、新しい物質・材料科学分野のリード化合物を生み出す方法になると期待しています。現在は得られた知見を元に、シクロパラフェニレン類のみならず、種々の環状π共役分子の合成に挑戦しています。より詳しい内容は、最近のレビューを参照ください。 [pdf]


図2 [8]シクロパラフェニレンの合成


図3 種々のCPP誘導体